めいそうろく

漫画、映画の感想や創作に関するブログです

何回食べてもおいしい料理「吾峠呼世晴短編集」

大ヒット漫画「鬼滅の刃」の作者、吾峠先生の短編集を立場もわきまえず主観的にご紹介。

こんな人におすすめ

  • 少年らしくない少年漫画が読みたい人
  • 鬼滅の刃のルーツを知りたい人
  • 文芸的な趣ある漫画が読みたい人

全編を通してセンスの良さがビンビン。

まず鬼滅の刃のルーツである「過狩り狩り」が単純にめちゃくちゃ渋くてカッコイイ。なにがカッコイイって見せ方です。主人公がどんなキャラなのかガツーンと出てきません。脈絡なく挟まれる回想と他のキャラたちが気にしている様子からジワッと感じ取るのです。とにかく設定の説明的な台詞が出てきません。吸血鬼が出てるのに「吸血鬼」という単語がないのです。意識して絵で見せようとしたのかな?キャラ設定がしっかり固まっており、魅力的なキャラをどう見せたらさらに魅力的に見えるか先生はつかんでいるのでしょうね。でも、なんだかサンデーっぽくなりそうなのにちゃんとジャンプな感じがするのはなぜだろう。

セリフ回し、言語的なセンスがとても良い

なんかセンス、センス言っちゃってるなぁ、センスとひとまとめにしてしまうのは僕のセンスのなさからか…でも「肋骨さん」とか言語センス良いよなぁ。肋骨さん好きだわぁ…戦闘中に「なんのシャンプーつかってるの?」はおしゃれだぁ。先生のバッグボーンには文芸があるのでしょうか?河童とか喋るカラスとか民俗学的なものが好きそうだけど、とにかく「和」のうま味を少年漫画に落とし込んでいます。やっぱり大正時代を舞台にするくらいだから文芸的なところ通ってるんだろうけども。

この下地に名作の要素を足して鬼滅の刃は生まれた。

鬼滅の刃」にはたくさんの売れている漫画の影響を見ることができますね。「犬夜叉」、「ジョジョ」、「ハンターハンター」、「D.Gray-man」、「ブリーチ」などなど、まだあるかもしれませんが、僕が見て取れたのはそれら。その数々の料理に使われている食材を選び抜き、この短編集を下地においしい料理を作りだしたという感じでしょうか。やっぱり作家性という下地が無きゃできないんですねぇ…。おいしそうに見えるものはできても…。

流行ってる主人公の特徴は「普通を求める」

いろいろな人がすでに指摘してますけど、最近の主人公の特徴は、失われた、あるいはもともとなかった普通の日常を求めるのが特徴ですよね。僕はこの流れには脈絡があると思っています。2010年代から「進撃の巨人」がブームになりましたが、「けいおん」などの日常系と言われる類似作品もブームになりました。「進撃の巨人」も一応日常を失われているのですが、それはきっかけにすぎず、本性はルフィですよね。少なくとも日常のすばらしさは描かれていません。逆に「けいおん」などは本当に山も谷もない日常こそ素晴らしいという作品でした。ヒット作は世の中の気運を反映していると言われます。つまり、2010年代は抑圧の年代だったのです。見る人の気分が抑圧に死んででも抗うのか逃避するかのどちらかに分かれていた。そして、2016年に「鬼滅の刃」です。後発に「チェンソーマン」、「スパイファミリー」が来ます。つまり、2016年代は「夢は見ないでひとまず日常を得ようか」という気運なのでしょうね。では、2020年、元号も変わり次は何がくるでしょうか?僕はM-1の3位に輝いたぺこぱにヒントがある気がします…

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